伊豆に暮らす

伊豆に暮らす 〜健康暮らし応援隊〜絆

若者に増える心の病気 社会不安障害−SADを知っていますか?

私たちは、さまざまな不安と隣り合わせで暮らしています。
不安や恐怖は本来、身(命)を守らなければならない時に身構えるための、生きていくうえで必要な感情です。
しかし現代人は、それ以上に社会的な不安というものを常に抱えています。
「周囲から批判を受けるのではないか」 「恥をかくのではないか」といった対人関係の不安です。
そんな不安が、人によっては大きな恐怖となり、ときには身体的な異変が起きたりして、
日常生活を営むことが困難になる場合があります。
それは内気、恥ずかしがり屋といった「性格」ではなく、SAD〜社会不安障害という心の病気だと考えられます。

人と接するのが怖い

人前で話すのが苦手であったり、視線を感じると緊張したり…という経験は、少なからず誰にでもあるでしょう。
そしてそんな不安感があるからこそ、
「失敗してはいけない」
「笑われないようにしよう」という心構えができるのです。
しかし、そのような状況に立たされることに人一倍恐怖感があり、
緊張や不安感だけでなく身体症状まで現われる場合があります。
その経験から、さらに強い恐怖心が生まれ、行動範囲が狭まり、日常生活に支障をきたすようにもなります。
このような障害がでる人は、不安から起こる心の病気、社会不安障害=SAD(以下SAD)であるかもしれません。

「性格」だと片づけられていた

SADの人は、自覚があるないにかかわらず、自分に向けられる評価がとても気になります。
発症のきっかけは、
人前で上手に話ができなかった 自分の癖を人に指摘されたなど たいていは些細なことです。 通常は、場数を多く踏むことで慣れてきたり、改善するように心がける程度で済むでしょう。
しかし、その失敗や指摘が一大事となって記憶に残り、次に同じ状況に立たされた時に、
「また失敗したらどうしよう」 「変な癖がある人だと思われるんじゃないか」 と必要以上に緊張してしまうことがあります。
もちろん、それだけでは病気とはいえません。
SADの場合、その緊張感、不安感が著しく強く、
そんな精神状態のため、発言や行動が普段どおりにできなくなります。
さらに、大量に発汗したり、身体が震えるなど、身体症状が現われてきます。(下記参照
すると、これらの症状によってさらに、
「様子がおかしいと気づかれているのではないか」と気になり、緊張と不安がエスカレートします。
このような悪循環に陥り、人と接することが耐えがたい苦痛になるのがSADの特徴です。
人によっては、職場や学校に行けなくなってしまうこともあります。
さらに、SADの人は「自分の不安感や症状は過剰反応である」とわかっている点も、特徴のひとつです。
わかっているのにそうした反応を止められないことで、自己嫌悪に陥り
たとえ恐怖する状況を回避できたとしても、本人の悩みや苦しみは解消されません。
SADは、近年まであまり理解されていませんでした。
そのため、周囲も患者さん自身も、病気だという認識はなく
『内気』だとか『恥ずかしがり』な性格だからしかたがない、と思われていました。
しかし、SADは性格の問題とは違います。
治療法もあり、改善すれば、これまでの消極的な人生とは違う
積極的ないきいきとした人生に変えることもできるのです。
ただし、自己判断で不安障害だと決めないでください。
自分ではどうすることもできない不安に悩んでいるような方は、専門医を受診するようにしてください。

SADの人が恐れる状況(例)

・知らない人と会う(会話する)
・権威ある人と会う(会話する)
・人前で発表や発言を求められる
・人前で電話をかける
・人前で字を書く
・人と目を合わせる
・人と食事をする

SADの主な症状
精神状態

・人前で恥をかくのではないか
・人にダメな人間だと思われないか
・身体症状に気づかれて、人から様子がおかしいと思われないか

身体症状

・動悸がする
・顔が赤くなる(ほてる)
・息苦しくなる
・吐き気がする
・大量の汗をかく
・めまいがする
・手足または全身が震える
・声が出ない
・口が渇く
・トイレに行きたくなる
・パニック発作が起こる

SADの人は特別か

SADは、10代の後半から20代の前半に、もっとも多く発症します。
もちろん、職場での強いプレッシャーなどがきっかけで、30代、40代で発病することもありますが
比較的発症年齢が低い病気です。
しかし、医療機関を受診する年代は30歳前後が中心といわれ
発病してから10年20年と、長い間苦しんだあげく、受診する患者さんが多いと思われます。
SADは慢性化すると、社会状況に適応できない苦しみや、
それに伴う身体症状、自己嫌悪によって、うつ病やパ二ック障害を併発することがあります。
さらに、不安や緊張を紛らわすためにアルコールに依存するケースもあり
さまざまな精神疾患を合併しやすい病気です。
では、このような病気は、特別な人しかならないものなのでしょうか?
統計学的には、SADになりやすい性格というものは見つかっていません。
多少は神経質(内向的・心配性・完全主義など)な傾向がありますが、
社交的な人、目立ちたがりな人にも、多く発症しています。
最近の調査では、10人に1人の割合で、生涯に一度はSADを経験するようだとわかってきました。
また、仕事をしたくても就職できない、
いわゆる『ニート』と呼ばれる若者、また『引きこもり』になる人が増えていることが、
近年社会問題になっています。
こうした人々のなかには、SADの症状に苦しむ人も少なくないようです。
SADは、特別な人がなる特別な病気ではなく、ごく身近な病気なのです。

SADの特徴

1.人の注目を浴びるような状況や行為に対して、常に恐怖心がある。
2.恐れている状況に立たされた場合、ほぼ必ず症状が誘発される。
3.本人は、その恐怖心や身体症状が、過剰反応で不合理だと認識している。
4.恐れている状況や行為を回避したり、不安に襲われたりすることで、仕事(学業)などの社会活動が障害されている。
 またそのことに苦痛を感じている。
5.恐れている状況や行為を回避しているか、それができなければ強い不安と苦痛を感じながら耐えている。
6.身体症状が現われても、起因と思われる身体疾患は存在していない。

回避だけでは治らない

SADの原因は、現在でもまだよくわかっていませんが、そのメカニズムは解明されてきました。
脳内の神経細胞が情報を伝え合うために分泌する、神経伝達物質が関係していると考えられています。
具体的には、数十種類の神経伝達物質のうち、
セロトニンの量のバランスがくずれると、SADの発症につながるということです。
そこで、神経伝達物質が神経細胞に再取りこみされるのを阻止する、SSRIという薬が有効であることがわかり
現在、SADの治療で多く選択されています。
症状によっては、抗うつ薬や抗不安薬が用いられます。
また、薬物治療の他に、心理療法を並行して行なうこともあります。
心理療法には

認知療法

不安になるメカニズムを理解し、誤った思いこみを修正していく

行動療法

刺激の弱い段階から、回避状況にあえて身をさらし、徐々に身を慣らしていく

森田療法

不安を受け入れ、あるがままに生きるという概念で、不安への「とらわれ」を取り除く

などがあり、医師の指示のもとで段階的に行ないます。
これらには、薬物療法でみられるような副作用はありませんが、
ときには患者さん自身に不安や恐怖にあえて飛び込んでいくぐらいの高いモチベーションが必要になります。
不安障害全般にいえることですが、恐れている状況を回避しているだけでは、この病気は治りません。
現在は不安を和らげる有効な薬も多くあり
これらを上手に利用しながら、あせらず時間をかけて取り組んでいきましょう。
SADの人は、とかく
「自分は弱い人間だ」
と劣等感をもってしまい、周囲の人にもそう思われがちです。
しかしSADは、人と良い関係を築きたい、より良い人生にしたい、という欲求が強い人に多いのです。
これは劣等感をもつようなことではありませんから、患者さんには自信をもっていただきたいと思います。

神経伝達物質とSSRIの役割

神経細胞 神経細胞間にはすき間があり
ここを神経伝達物質が移動することで
さまざまな情報が伝えられる。

通常の状態 通常の状態
セロトニンがAから放出され、
Bの受容体と結合することで情報を伝達する。
あまったセロトニンはAに戻る。

SADの状態 SADの状態(SSRIを服用した場合)
SADの場合は、セロトニンがBに結合する量が少ない。
SSRIは、セロトニンが再取りこみされるAの取りこみ口にフタをする。
これで、神経細胞間のセロトニンが増え、
Bの受容体に結合しやすくなる。
(情報伝達が正常になる)