伊豆で食べる

干物の目利き・活用術など

干物のうまさは凝縮されたうまみ

魚は腐りやすいものだが干物にすると生干しで3、4日もう少しよく乾かせば一週間以上も保存することができる。
では、干物はどうして腐らないのか。それは簡単にいえば塩蔵・水断ちの効果だ。
食べ物が腐るのは主として微生物の繁殖が原因である。
この微生物が生育するためには、1-水分、2-栄養分、3-適度な温度、4-適度なpH、5-有害成分がないことなどの条件が必要。
逆にいえばこの条件さえクリアできれば食品は腐りにくくなる。
干物は魚を乾かして水分を除き微生物が繁殖しにくいようにしているのである。
同時に干物はたいてい塩分に漬けてある。塩が強い干物は、あまりカラカラに干していなくても保存がきく。
これは塩自体に防腐効果があるのではなく濃い食塩水の中では微生物が生育しにくくなるからだ。
また、塩を振ると魚から水分が出て乾燥も進みやすい利点もある。
このように干物は乾燥と塩蔵の効果をうまくミックスした保存食なのである。

干物には生の魚を食べるのとは違ったうまみがある。
魚の水分が減ってもうまみの成分量は変わらないから、うまみが凝縮されるのだ。
100%のジュースのほうが30%のジュースより果物自体の味が濃いのと同じ理屈だ。
同時に塩漬けして魚の水分を出す過程で魚の生ぐさみも消え風味もよくなる。
また、天日乾燥をすると魚の表面が先に乾いて膜ができ、その中でうまみが熟成され生よりいっそう味に深みが増す。
干物は作り方によっていろいろな種類がある。主なものをあげてみよう。

1- 素干し :魚介類を生のまま塩もせずそのまま干したもの。
2- 塩干し :塩をして干したもので最もポピュラーな干物。
3- 調味干し :みりん干しが代表。みりんやしょうゆは魚くささを除く効果がある。
4- 煮干し :魚介類をいったん煮てから乾燥したもの。
 ダシとり用のイリコはカタクチイワシで作った煮干し。
5- 焼き干し :焼いて干したもの。生産量は少ないが焼きワカサギ、浜焼きダイなど
 地方の名産品になっているものも多い。

干物を作るには魚の水分を抜けばいいのだから原理はすこぶる簡単。設備もあまり必要がない。
極端にいえば太陽と風があれば、または太陽だけでも、風だけでも干物が作れる。
塩や灰などで包んで水分を吸い取らせて作る方法や凍らせて解凍の過程で水分を抜く方法もある。
一般に市販されている干物の作り方は大きく分けて二種類ある。
機械を使わない自然乾燥法(天日干しなど)と乾燥機を用いた人工乾燥法だ。機械乾燥には熱風乾燥と除湿乾燥がある。
もちろん、手作りの干物は自然乾燥。安全な材料を使った手作り干物はひと味もふた味も違う。
だから、多少失敗したとしても自分で手作りしたほうがうまい。
楽しんで作っているうちにコツをつかんで、さらに味わい深い干物が作れるようになる。

干物の目利きは鮮魚の目利き

脂が乗った魚は開いた状態で円に近い形 市販の干物を買うときは鮮魚を選ぶときと同じつもりで
目でよく見て鼻でにおいをかぎ五感を働かせてチェックしよう。
まずは形。干物は鮮魚同様、肉厚で脂がよく乗ったものがうまいのだが、
たとえばアジの開きの場合、
いいものは開いた状態がふっくらと丸く円に近い形をしている。
身が厚く脂が乗った魚は丸く見え、
やせた魚は腹が薄いので開くと細長くなる。
カマスなどの細長い魚も見比べてみると
側面が丸みを帯びているかいないかがわかるはず。
次に色つや。アジやイワシなどの青魚は赤みがかったベッコウ色、
カマスやトビウオなどの白身魚は白みがかったアメ色で透明感と自然なつやがあるものが良品。
脂焼けをしたものは黄色がかっていたり鉄サビのようなくすんだ赤色をしている。
煮干しは一尾ずつ形がそろい、ややそりぎみで全体に青みがかり光沢のあるものが良品。
茶色がかったものはくさみが強くダシが濁るので避けたほうがいい。

鮮度の悪い魚で作った干物は骨が浮き上がっていてはずれやすく「蛇腹」とか「蛇腹立ち」という状態になっている。
塩がうまく回っていない干物は身がぼやけた感じになる。
とらえどころのない言い方かもしれないが、
よく塩が回った身には光沢があるからいろいろ見て実際に食べてみると違いがわかるはずである。
干物が古くなっていないかどうかを調べるには、においをかいでみるのが一番簡単。
嫌なにおいがするもの腐敗臭がするものは絶対に避けよう。

ところが、ここで困った問題がある。
店で売っている干物は、たいてい添加物でつや出しがしてある。添加物は当然、味に影響する。
いかにもうまそうにつやつやと光っている干物は逆に要注意なのだ。
天日干しの干物を実際に作ってみるとわかることだが、
どんなに新鮮な魚を使っても、どんなに上手に干しても、光り輝くようなつやは出ない。
もちろん自然の光沢というものはあるが、それはワックスをかけたようにピカピカ光ることではない。
無添加の干物を求めるには自然食品店か信頼のおける通販ルート、あとは手作りだ。
見かけにだまされず、ホンモノを見極める目を育ててほしい。

肉の厚みと透明感が決め手

生干しのイカの目利きも鮮魚の目利きとまったく同じだ。
新鮮なスルメイカは透明感のある赤褐色をしているから新鮮そのままの色と弾力があることを確かめて求めるようにしよう。
特に気をつけたいのはミミ(エンペラ)の透明感。全体に身が大きくて肉厚のものが味にコクがあって美味である。

スルメには材料や干し方によっていろいろな種類があるが、
いずれも身が肉厚で大きく足が全部そろい吸盤がしっかりついているものが上質。
スルメイカで作ったスルメは赤褐色でつやがあるものがいい。
全体が黒ずんでいるものは素材の鮮度が悪い。ケンサキスルメは白色でつやがあり少し粉を吹いているものほど良品。
スルメは保存の途中で表面に白い粉を吹く。
この粉は肉中のエキス分がにじみ出てきたもので、むしろうまみなのだが、
最近では消費者がカビと間違えるため粉を吹かないような製法で作られている。
だから、スルメの白い粉はうっすらとついていて軽くたたくと落ちるものが良質。
全体にこびりついているときには保存状態が悪く質が落ちていると考えていい。
スルメイカで作ったスルメに赤い粉がついていることかあるが、
これもカビではなく表皮の色素が粉についたものだから心配はいらない。

ぴっちりラップで脂焼けを防ぐ

最近の干物は塩が薄く干し方も浅いのでほとんど鮮魚だと思ったほうがいい。
干物を保存するときは空気に触れると酸化しやすいので必ず一枚ずつラップにぴっちりと包んで冷蔵庫へ入れる。
生干しは買った当日か遅くても翌日には食べきるのが原則。
それ以上もたせたいなら冷凍庫へ入れると一か月くらいは大丈夫だ。生干し以外の干物は冷蔵庫で3、4日。
冷凍庫なら一か月がおいしく食べられる期限。やはりラップを忘れないこと。
たとえ冷凍庫に入れておいても、
あまり時間がたちすぎると徐々に酸化が進み鮮度が落ちて色つやが悪くなり当然ながら味も悪くなる。
また市販の干物は製造過程で何度か冷凍と解凍を繰り返すので
その途中でどうしても鮮度が落ちるから、やはり冷凍庫での長期保存はおすすめしない。
できるだけ早めに食べることがいい干物をおいしく食べるコツなのである。

魚の脂は酸化しやすい。干物の脂が酸化して表面が黄色や赤サビ色になったりすることを脂焼けという。
脂焼けした干物は色が悪いばかりでなく嫌なにおいがして渋くとても食べられたものではない。
干物の脂焼けを防ぐには、まず製造中の管理が重要。
暑すぎたり太腸を強く当てすぎると脂焼けが起こる。あとは保存状態。
ラップで空気を遮断して冷蔵庫で保存し、できるだけ早く食べきることをおすすめする。

減塩アジの開き干しを作る

干物はもちろん天日干しがうまい。
これは声を大にして何度も繰り返してきたことだが最近の住宅事情では魚を外に出して干すことが不可能な人も多いだろう。
そんな人のために朗報。家庭の冷蔵庫で干物が作れるのだ。魚の水分を抜いたものが干物。
水分を抜く方法として太陽や風を利用するのだが、
市販されている魚用脱水(水切り)シート「ピチット(昭和電工)」を便えば上手に水分が抜けて手軽に生干しができる。
ピチットは水分と魚の生ぐささだけを通す膜の内側に強力に水分を吸収する食用糖類を入れたシート。
はさむだけで魚全体から均一に水とにおいが取れる。
一般には魚の下ごしらえ用に使われているが、この吸水性を利用して干物を作ろうというわけ。
原理的には一夜干しの生干しと同じだ。冷蔵庫の中で作るからハエや烏の心配は不要。
干しているうちに腐ることもないから塩分を控えた減塩干物もできる。

まずはポピュラーなアジの開きを塩分控えめで作ってみよう。
材料はアジ4尾に対し塩大さじ2分の1杯、酒大さじ1杯。
塩の分量は好みで加減して、もう少し減らしてもかまわない。アジを開いて塩水で洗いバットなどに広げる。
塩と酒を合わせてからめ20〜30分。
軽く汁けをふき取ってピチットにはさんで冷蔵庫に入れて一晩おく。実に簡単にでき上がる。

サバのみそ漬け干しなどを作る

ピチットで作る干物は保存のために塩分を強くする必要がないので味つけに自由がきく。
たとえばサバは、みそとよく合うのでみそ漬け干しにしてみよう。
干さない、ただのみそ潰けだと生ぐささが気になるがピチットは水分と一緒に生ぐささも取り除いてくれる。
材料はサバ(切り身)で8切れ、赤みそ大さじ2杯、酒大さじ1杯、ショウガ1片。
サバは食べやすい大きさにそぎ切りし調味料とおろしショウガを合わせてからめる。
調味料ごとピチットに並べてはさみ冷蔵庫に入れて一晩おく。
これを焼いて食べるとみその香りが香ばしくひと味違った干物の世界が楽しめる。

同じようにして、みりん干しも冷蔵庫で作ることかできる。
たとえばイワシの場合、材料はイワシ8尾、しょうゆ大さじ3杯、みりん大さじ1杯、砂糖大さじ1杯、白ゴマ少々。
作るときにはあらかじめ調味料を合わせ小鍋で煮立てて冷ましておく。
イワシは頭を落として開きバットなどに並べて調味液を回しかけたのち20〜30分おく。
汁けを切って身のほうに白ゴマを振りピチットに並べてはさみ冷蔵庫に入れて一晩おく。
白ゴマの代わりに一味トウガラシを振ってもいい。アジやサンマやサバなどで作るときも同じ要領でできる。

イカの酒干しを作る

薄塩にほんのり他の風味をプラスした干物もオツな味。たとえば日本酒風味の酒干し。
上品な味わいだから白身魚やイカなど淡泊な味の材料で作るのがいい。
イカの場合、材料はイカ1ぱい、塩小さじ1杯、酒大さじ1杯。
イカは足を抜いて胴を開きワタと目、クチバシを取って洗う。足も吸盤を取って洗っておく。
これをバットなどに入れて塩と酒をまんべんなく振り全体にからめて20〜30分おく。
汁けを切ってピチットにはさみ冷蔵庫に一晩入れてでき上がり。
このほか梅肉を日本酒で溶いてつけて梅風味にしたり、
カボスやスダチなどのしぼり汁を加えてさわやかな香りをつけるのも粋。
いろいろくふうしてオリジナルの生干しを作ってみよう。

ピチットで作った干物は減塩のうえ生干しだから、あまり日もちはしない。
鮮魚と同じに考えてできれば作った翌日のうちに食べるのが原則。
遅くても2、3日中に食べきること。それ以上保存したいなら冷凍庫に入れたほうがいい。
だが、簡単に作れるからこそ食べる分だけこまめに作ってうまさが逃げないうちに食べきりたい。
また、あまり長くピチットにはさんでおくと水分が抜けすぎてパサパサになってしまう。
一晩過ぎて、さらにおいておくようならピチッ卜をはずしてラップに包み直して冷蔵庫に入れるようにしよう。

ひと味違う上手な焼き方

手塩にかけて作ったかわいい干物は心を込めて焼いて食べてやりたいと思うのが人情。
いくらいい干物を作っても焼き方しだいでうまいまずいが大きく違ってくる。
干物を焼くときは火力が強く、しかも火の当たりがやわらかい炭火で焼き網にのせて焼くのが一番。
次がガス火で焼き網、トースターやグリルは手軽だが、どうも焼き上がりがパリッとしない。
昔から言い伝えに「海の魚は身から、川の魚は皮から焼け」というのがある。
立派な修行をした板前さんが焼くなら、これは正しい方法なのだろう。
だが、一般の素人が焼くときは海の魚であっても背中側、つまり皮から焼くことをおすすめする。
なぜならば、そうすると焼けている途中の身の状態がよく見えるからだ。

干物を網にのせる前に焼き網を十分に焼く。
そうすると、干物の皮がくっつかないのできれいに焼き上がる。火は強火の遠火でじっくりと。
焼き網で焼く場合は火が下にあるから皮から焼くと身の部分が上になる。焼きながら身の状態をよく見ておこう。
身が白くなってきたら全体に火が通ったということだから返して身の表面に黄金色の焼き色をつける。
なにより大切なことは焼きたてを食べること。
手づかみでワイルドに食べたほうがうまい、と思うのは私だけかもしれないが作法なんか気にしないで食べるのが一番だ。

うまみを最大限に生かす焼き方

よく干してカラカラに乾いた干物は、焼きすぎるとかたくなるので火にかざす程度であぶるつもりで焼くといい。
このあぶり焼きは絶妙の味だが、
もっとやからかくして食べたい場合には、焼く前に酒とダシ汁を1対1の割で合わせたものに漬けておく。
また、ダシと酒、しょうゆを合わせ濃いめの味つけの吸い物くらいの汁を作っておき、
さっとあぶった干物をつけ、少しおいてから食べてもオツな味になる。

生干しはあっさり焼いたほうが魚の風味が生きる。ほんのり焼き色がつくくらいが目安で決して焦がさないこと。
そのまま食べてもいいが
ダシ汁3 対 酒1 対 薄口しょうゆ0.5の割合で合わせた調味料をかけながら焼くと料亭ふうの風味が楽しめる。

みりんは火を呼ぶといって焦げやすいので弱火で網焼きする。
金網は焼く前に焼いておくとくっつきにくい。

たたみイワシ、デベラ、干しガレイなど薄くてカラカラに乾いた干物を焼くときは軽くあぶる程度で十分。
しょうゆをハケで塗って乾かすように焼いて仕上げると香ばしさが格別だ。
食べるときは絶対に焼きたてを温かいうちに食べること。時間がたつとかたくなり風味が落ちてしまう。

茶漬けで香ばしく、さっぱりと

焼きたての干物で作る茶漬けはうまい。あっさりしているくせに、うまみとコクがある。
酒を飲んだあとの最後の締めの一品に、また手軽な昼飯に、こんなに簡単なのにこんなにうまくていいのかと思うほどだ。
干物は、たとえばムロアジやカマス、トビウオなど、あっさりした風味のものを選ぶ。
焼きたてをほぐし熱々のご飯の上にのせ、しょうゆをほんの少し回しかける。
その上に薬味のワサピをちょいとのせて熱湯を回しかければでき上がりだ。
ご飯は冷や飯でなく、炊きたての熱々を使ったほうが絶対にうまい。
薬味はワサビがおすすめだが、ちょいと雰囲気を変えてワサビ漬けでもイケる。

開き飯は炊き込みふう混ぜご飯

アジの開きのちょいと変わった食べ方としてアウトドア作家の甲斐崎圭さんが教えてくれた開き飯を紹介しよう。
アジの開きを焼いて身をほぐし炊き上がった熱々のご飯に混ぜ込むだけ。
しょうゆ味がついていたほうがうまいのだがご飯をあらかじめ炊き込みふうの味飯にしてもいいが、
開きを混ぜ込むときに、しょうゆを少々一緒に混ぜ込むのが簡単で、かつうまい。
この炊き上がった飯にしょうゆを混ぜるやり方は、漁師がよくやるしょうゆ飯の作り方と同じである。
干物はアジやカマスなど、比較的淡泊なものならなんでもうまいとか。これは甲斐崎さんオリジナルで好評な料理だそうだ。

残った干物を酢漬けでおいしく

干物を焼きすぎて食べきれなくて困ってしまったことはないだろうか?
冷えた干物はボソボソしてまずいし、もう一度焼くと焦げてしまう。
始末におえないと思うかもしれないが、これをうまく食べる方法がある。
残った干物の骨をはずし身をほぐして酢に漬ける。酢は塩も砂糖もなにも入れない生酢そのままでOK。
しばらく漬けてから、しょうゆと砂糖、みりんを少々入れて好みの味つけにする。
アジやサバなどの青魚の干物もカレイやカマスなどの白身魚の干物もこの方法なら翌日になってもうまく食べられる。
ほんのり甘ずっぱい味が白い飯によく合う。

焼いた干物にあきたら揚げ物に

干物は焼くだけでなく揚げてもうまい。生魚と同じ感覚で、そのままてんぷらやフライ、唐揚げにする。
カラッと揚げると、思ったより量が食べられるから
一人一枚なんてケチなことをいわずにいろいろな干物でたくさん作ってみてほしい。
掲げたてはことに美味。焦げやすいので油の温度は低〜中温。よく水けをふいてから揚げること。
てんぷらは、好みで塩やしょうゆ、てんつゆを少しつけてもいいが、
干物の塩けで十分味がついているのでそのまま食べてもうまいし、そばやうどんの具にもできる。
フライは衣をつける前に少しコショウを振っておくと味が締まる。
これもそのまま、またはケチャップやソースで食べよう。